[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
集団予防接種の注射器使い回しが原因のB型肝炎訴訟を巡る国と原告団の和解は28日で2年を迎える。給付金を受ける患者を認定する訴訟は証拠書類を審査する国の体制が拡充されて和解が増えているとはいえ、救済枠から外れたり、カルテが集められなかったりして長期化するケースも少なくない。全面解決は道半ばとなっている。
「B型肝炎の患者は、全員同じ条件で救済してほしい」。関西に住む50代の原告の女性はこう訴える。
除斥期間が壁に
B型肝炎への感染が判明したのは、中学生の時だった。結婚後、2人の子供を授かったが、1991年1月、肝臓がんと診断され一部を切除した。98年7月、再発して手術。基本合意後の2011年10月、救済を求め、大阪地裁に提訴した。1年半以上が経過した今なお、和解に至っていない。
長期化の背景には、国側と原告側のB型肝炎の発症時期を巡る対立がある。救済制度は、発症から提訴まで20年の除斥期間(損害賠償請求権の存続期間)が過ぎれば、給付金が大幅に減額される仕組み。原告側は発症時期を2回目の13年前ととらえ、除斥期間内と主張。これに対し、国側は1回目のがん発症が起算点と反論している。
ウイルスを抑える薬を毎日服用。がんが発症しないか不安な日々を過ごす。女性は「家族に支えてもらっており、最後まで頑張りたい」と話す。
厚生労働省によると、13年5月末までの提訴者は約9700人。うち37%にあたる約3500人の和解が成立した。当初は国側の人手不足の影響で和解が進まず、基本合意から1年後の12年6月末時点の和解成立は12%にとどまっていた。このため、厚労省は12年度から、担当職員を倍増。約30人体制で証拠書類の審査などに当たっている。最近では月間300~400人の和解が成立するようになってきたという。
集団予防接種での注射器使い回しは、予防接種法が施行された1948年7月から、旧厚生省が中止の通達を出した88年1月まで約40年間続いた。B型肝炎に感染した患者は、死亡者を含め推計で四十数万人に上る。患者は医療機関のカルテが処分されているなど証拠を集めるのに難航することも少なくない。
2012年2月、福岡地裁に提訴した福岡県内の女性(61)もその一人。母子感染を否定する証拠となる母子手帳がなく、自分が生まれた医療機関で当時の記録を探そうとしたが、既に廃業していた。約35年前に検査でB型肝炎の感染が判明した病院や、約20年前に慢性肝炎と診断した病院にも足を運んだが、いずれも当時のカルテは処分されて残っていなかった。
女性は08年、肝硬変と診断された。訴訟では通院中の病院のカルテなどを証拠として提出。女性は「いつになったら和解できるのか分からない。なぜこんなに苦しまないといけないのか……」と苦しい胸の内を吐露する。
提訴まだ1万人
「手術の痛み、再発を繰り返すことへの恐怖は本人しか分からない」「母子感染で息子2人が肝臓がんを発症し手術を受けた。自責の念でいっぱい」。約1400人の患者や遺族に対する調査では、深刻な不安や悩みを抱えている実態が改めて浮き彫りになった。
東京弁護団団長の柳沢尚武弁護士は「提訴した患者は約1万人にとどまる。カルテを集めるのが難しかったり周囲からの差別や偏見を恐れたりして、提訴をためらう人も多いのではないか」とみる。少しでも多くの患者に手を挙げてもらえるよう、原告・弁護団は国に除斥期間のない一律救済を求めていく。
◇ ◇
■再発防止へ検証・教材 国、薬事行政の失敗教訓に
多くの被害者を出した薬事行政の「失敗」を教訓に、再発防止に向けた取り組みが始まっている。
厚生労働省は2012年5月、B型肝炎感染拡大の検証と再発防止を議論する有識者検討会を設置。今年6月、再発防止の提言書をまとめた。
提言書は、国内や先進国で注射器使い回しの危険性が早くから指摘されていたことを挙げ、「注射針や注射筒交換の指導の時期や方法が適切であれば、感染拡大は回避できた」と国の対策の遅れを指摘。予防接種による被害や副作用について、情報の収集・分析の体制拡充を求めた。
厚労省は今年4月から、予防接種による副作用の報告を医療機関に義務付けている。検討会メンバーで全国B型肝炎訴訟原告団の田中義信さん(54)は「なぜ、厚労省の対策が遅れたのか検討会では十分に解明できなかった」と振り返り、「二度と悲劇を繰り返さないよう国民の側に立った行政を訴えていきたい」と話している。
教育現場にも広がっている。同省は11年度から、サリドマイドによる胎児の障害や血液製剤によるエイズウイルス(HIV)感染など10の薬害の実態を扱った教材を作成。今年度は120万部を全国の中学校に配布した。
教材を授業で使用した学校は全体の2割以下。現場からは「学習指導要領のどの項目に合致するか分からない」など戸惑いの声も上がった。今後、全国薬害被害者団体連絡協議会(薬被連)の協力を得て、講師も派遣する。「被害を繰り返さないためにも、教育の重要性が現場に伝わるよう努力していく」(薬被連)
(山本公彦、今井孝芳)
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190402_51