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肝臓がんの原因のC型肝炎に“特効薬”が相次いで登場した。従来はインターフェロンという副作用の強い注射薬を使っていたが、飲むタイプの新薬は副作用が少なく、治療効果はほぼ100%という。助成を受けられるため患者の自己負担は小さいものの、国や自治体の医療費支出は膨らむ。こうした薬はどう扱うべきなのだろうか。
C型肝炎は原因ウイルスを含む血液の輸血などで感染する。感染者は国内に約150万~200万人いるとみられている。少しずつ肝臓の細胞が壊れていき、慢性化すると肝硬変や肝臓がんを発症しやすくなる。
「いつから使えるようになるのか」。7月に厚生労働省が製造販売を承認した米ギリアド・サイエンシズの「ハーボニー」について、肝炎患者の団体には、こんな問い合わせが相次いでいる。ハーボニーは26日に保険適用が決まった。9月上旬に販売が始まる見通しだ。
ハーボニーにつけられた薬剤価格は1錠8万171円。効き目の高さなどが評価され、薬価が高く設定された。1日に1錠を12週間続けて飲んで治療する。
国や自治体から医療費助成が受けられることも併せて決まった。患者の自己負担は月に2万円以内に抑えられる見通しだ。ただ、過去に肝炎治療で医療費の助成を受けたことがあると断られることもあるので注意しよう。
この薬が注目されているのはまず効き目の高さだ。C型肝炎患者の約7割を占める「1型」の患者にとって待ちに待った薬といわれる。国内の臨床試験(治験)では、157人の患者に12週間飲み続けてもらったところ、すべての人で原因ウイルスが消えた。「信じられないような結果だ。これまで難しかった高齢者の治療が進む」と、治験を担当した国立国際医療研究センターの溝上雅史医師は期待する。
インターフェロンを中心とした従来の治療は全身の倦怠(けんたい)感や食欲不振、うつなどの副作用が表れる。副作用は半分を超す患者に表れるというデータもある。意識がもうろうとする状態が続いて退職し、医療費の支払いに苦しむ患者もいるという。医療機関で働く50代の女性は「副作用で仕事を休むことになるのが不安で治療を受けられなかった」と話す。
今のところ、ハーボニーに強い副作用は確認されていない。服用する期間も12週間と、従来の治療の半分ですむ。
◇ ◇
ハーボニーに先立つ5月、ギリアドが開発した別の治療薬「ソバルディ(一般名・ソホスブビル)」が製造販売を承認された。こちらは国内のC型肝炎患者の3割ほどを占める「2型」に効果が高い。国内の治験では、12週間の服用で96%の患者でウイルスが消え、副作用も軽かった。ハーボニーとソバルディを使えば、国内のC型肝炎のほとんどの患者が完治する可能性があるという。
C型肝炎の“特効薬”はこのほかにも米国の製薬会社がいくつか開発しており、日本での販売を目指している。広島大学の田中純子教授はこうした画期的な新薬の登場によって、C型肝炎から肝臓がんを発症する患者が2030年までに半減すると試算している。
効果が画期的な薬は価格も高額になりがちだ。ハーボニーは12週間で約673万円にもなる。ソバルディは少し安いものの、1錠6万1799円もする。いずれも費用は従来の治療法の2~3倍に膨らむ。
後続の薬もかなり高い薬価設定になると予想される。そのほとんどを国や自治体がまかなうことになる。医療財政への影響を心配する声も多い。
◇ ◇
しかし、がんや肝硬変を発症して難しい治療と費用が必要になることを考えれば、法外な価格とはいえないと専門家はみる。医療経済が専門の東京大学の五十嵐中特任助教は「費用対効果を冷静に判断すべきだ」と話す。
五十嵐特任助教によると、がん治療だと年間1000万円の費用がかかるものも珍しくない。新薬を使わなければ、C型肝炎からがんや肝硬変に進行し、多額の治療費用がかかることもあり得る。「年間500万~600万円の薬代でも、健康に過ごせる期間の延びや将来の医療費削減を考えれば、十分に妥当な範囲だ」と説明する。「国の支援で早期治療に取り組めば、長期的に医療費抑制にもつながる」とみる。
五十嵐特任助教によると、C型肝炎のほかにも分子標的薬と呼ばれる新しいタイプの抗がん剤、関節リウマチの治療薬などで、治療効果が高く薬価も高い薬が出てくる可能性があるという。むやみに医療財政の負担が増すのを避けるためにも、費用対効果をどう見極めるのかを評価する方法を確立する必要がありそうだ。
◇ ◇
■ウイルス除去率、向上 薬価、高止まりは続く
C型肝炎ウイルスを除去する治療として、1992年にインターフェロンが開発され長い間使われてきた。単独で使うと除去率は10%ほどだったが、2000年に入ると、抗ウイルス薬と併用する治療法が開発され、34~56%に高まった。
2011年に肝炎ウイルスの表面にあるたんぱく質に働きかけてウイルスの合成を抑える薬が開発され、除去率は70%を超えた。核酸を使ってウイルスがコピーを作る働きを抑える新薬が開発され、90%に達している。
「ソバルディ」や「ハーボニー」に続く、新しい治療薬は今後も登場する見込みだ。米アッヴィは1型と2型の両方に効く治療薬について、国内で製造販売の承認を申請している。米メルクの日本法人のMSDは現在、1型に対する新薬の臨床試験(治験)を進めている。
新薬が相次いで承認されたからといって、価格が急に下がることはなさそうだ。今後も新薬の高止まりは続く。ただ、同じような効果を示す薬が3つ以上承認され、1番古い薬が出てから3年が経過した場合には、次に出てくる新薬の価格が低くなる制度もある。
(八木悠介)
[日本経済新聞朝刊2015年8月30日付]
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190402_23
子供の予防接種の「受け忘れ」を防ごうと、自治体などが保護者向けにスケジュール管理などのサービスを始めている。子供の予防接種は時期や回数が細かく決まっている。スケジュールは個々で把握しなければならず、集団接種が中心だった昔より負担は増している。「複雑で覚えきれない」。こんな声にこたえ、子供の健康管理を支援するのが狙いだ。
東京都西東京市が7月に導入したのは「ワクチンマネージャー」。予防接種のスケジュールを管理するシステムだ。
専用サイトにメールアドレスや子供の生年月日を登録すると、受けるべき予防接種と時期が確認できる。接種時期が近づくとメールで知らせてくれ、接種後の体調などについての確認を促すメールも届く。近くの医療機関を検索する機能もあり、そのまま電話をかけて予約もできる。
6月に長女を出産した同市在住の主婦、平山春香さん(26)は8月に登録した。「初めての子供で受け忘れなどが心配だったが、これまでは必要な予防接種を順調にこなしている」と胸をなで下ろす。10月末時点で登録している子供の数は1千人強で、「着実に増えている」(同市市民部健康課の藤澤悠史主事)。
■10種類以上対象
乳幼児向けの予防接種は多岐にわたる。2歳までに受けるのはヒブ、肺炎球菌、BCGなど公的負担のある定期接種のほか、B型肝炎やおたふくかぜなど原則自己負担の任意接種も含め10種類以上。今年10月には水痘(水ぼうそう)が定期接種になった。
働く母親の増加などで日程を決めた集団接種は減り、現在は「保護者の自己責任で医療機関で接種してもらうのが原則」(関東の自治体担当者)。多くの自治体は予防接種の説明や予診票の入った冊子を新生児のいる家庭に郵送して注意喚起しているが、受け忘れも起きやすい。
西東京市が導入したワクチンマネージャーと同じシステムは、神奈川県大和市や栃木県栃木市など14自治体も採用している。大和市の担当者は導入理由を「生後2カ月から受ける予防接種の日程作成について保護者からの質問が多かったため」と説明。開発した医療関連ベンチャーのミラボ(東京・千代田)は「最近自治体からの問い合わせが増えている」(谷川一也統括本部長)という。
■医療機関も対策
医療機関側の取り組みも進む。松江市にある診療所「ぽよぽよクリニック」は、スタッフが保護者の相談を受けながら予防接種の計画を作成する。次回の接種日を明確にして、接種漏れを防ぐのが狙いだ。
医薬品卸大手のアルフレッサは医療機関向けに乳幼児の予防接種の予約システムを販売する。サイトで保護者がスケジュールを管理、システムを導入した病院や診療所にサイト経由で接種を予約する仕組み。保護者の利用は無料だ。
医療機関側はあらかじめ接種予定が把握できるため、温度や使用期限の管理が難しいワクチンの扱いが容易になるという利点がある。「予防接種を実施する医療機関を広げることもできる」とアルフレッサの担当者は話す。
ドコモ・ヘルスケア(東京・渋谷)は11年から、専用アプリ「予防接種スケジューラー」を無料配信している。子供向けの予防接種を推進するNPO法人「VPDを知って、子どもを守ろうの会」(東京・中央)が作成した予防接種のスケジュールを基にした。子供に必要な予防接種の種類や接種の大まかな時期が分かるため、医療機関で接種する際の目安になる。
同会の藤岡雅司副理事長は「予防接種は信頼できるかかりつけの小児科医との相談も欠かせない」と話し、医師とのコミュニケーションの重要性を指摘する。
◇ ◇
■感染症減る一方で… 副作用に慎重な対応を
国は戦後、日本脳炎やポリオなどの感染症を防ぐための予防接種を推進してきたが、感染症患者が減少する一方、副反応による健康被害に注目が集まり始めた。
1994年に改正された予防接種法は、これまでワクチンを受けないと罰則のあった予防接種について「努力義務」に変更した。予防接種に積極的な欧米に比べ、接種ワクチンが少ない「ワクチン・ギャップ」も生じている。
流れが変わったのが、2009年の新型インフルエンザの世界的流行だ。国内でも予防接種の重要性が再認識され、公的負担のある定期接種のワクチンに、ヒブや小児用肺炎球菌、水痘(水ぼうそう)が加えられた。
一方で同時に定期接種になった子宮頸がんワクチンでは、原因不明の痛みなどが生じる問題も起きている。依然として安全性に配慮した慎重な対応が求められている。
(後藤宏光、山崎大作)
[日本経済新聞夕刊2014年12月11日付]
パートナーの手を握るシニア夫婦が増えている。結婚当初の夫婦ならともかく、長い夫婦生活を経た男女が手を握り合ったり、ましてや人前にその姿を見せるのは気恥ずかしいはず。そんな夫婦がお互いの手のぬくもりを求める理由とは……。
「きょうも仕事ご苦労さん」と夫は語りかけ、妻の手をぎゅっと握る。「お酒は控えて、体を大事にして」と妻はほほ笑みながら答える。
茨城県石岡市で、有機食材の宅配会社、大地を守る会(千葉市)向けに地鶏を生産する谷中登さん(57)と妻の恵子さん(59)。結婚して30年になるこの夫婦が、「何十年ぶりか思い出せない」(恵子さん)という手を握りあったのは2011年の春。体調がすぐれなかった登さんがC型肝炎と診断された時だ。
入院先は同県土浦市。かすみがうら市内のスーパーでパート勤めの恵子さんは夕方、仕事後に車で病院に直行した。「働いた後、夜遅くまでそばにいてくれる妻に、ありがたみを感じた」という登さん。入院中のある日、妻の手を握って病院内をゆっくり歩きながら、「これからもよろしく頼むな」と伝えたそうだ。
もともとおしどり夫婦だが、夫婦のきずなを確認するにはスキンシップが一番と分かった。今では、恵子さんが仕事を終えて帰宅すると、自宅の庭を手をつないで歩く日々。病気をして体力が落ちたものの、自力で歩行できる。ただ、「妻の手の温かさが身にしみる」と話している。
仲むつまじい姿を写真におさめて、インターネット上に投稿するシニア夫婦もいる。
11月初旬、東京都武蔵野市の井の頭公園。大木哲雄さん(仮名、72)と浩子さん(同、同)は、手をつないで歩く姿の写真を持参したカメラで通りすがりの若者に撮ってもらった。撮影した若者は「大木さんたちは夫婦というよりも仲の良い兄妹という感じ」と、驚きながらも、ほほ笑ましいと感じたようだ。
写真は哲雄さんがフェイスブックにアップするという。「3年前、英国旅行した時に出会った、手を取り合う英国人夫婦が印象的だった。日本のシニアも、欧米流のコミュニケーション術を取り入れた方がいいと思い、自分たちがモデルになって発信している。私たちの姿を記録として残したいという気持ちもある」。哲雄さんはこう話す。
プロ、アマ問わず写真投稿を受け付け、引き合いがあれば販売するサイトを運営するピクスタ(東京・渋谷)によると、大木夫婦のような写真を投稿するシニアが増えているという。
国際化や働く女性の増加で、シニア男性の中にも夫婦は対等のパートナーであるとの考えが広がりつつある。妻を大事にする気持ちを言葉だけでなく、スキンシップという形で表現する男性が増えたとしてもおかしくない。
夫婦のきずなを再認識するのはもちろん、手を取り合わなければ生活そのものに支障をきたす場合もある。介護だ。東京都大田区に住む石井良男さん(82)は10月、介護保険で要支援2の妻、ヨシヱさん(80)の左手を握った。結婚当初以来、56年ぶりに妻の手を握った瞬間だった。
ヨシヱさんは足腰が弱り、つえをついて歩く日々。夫婦で喫茶店に入ろうと入り口の階段を上っている時、つまずいて転びそうになったので、とっさに良男さんの手が伸びた。「強く握ったので痛かったけれど、うれしかった」(ヨシヱさん)。2人は毎日、昼の散歩を欠かさない。昭和一ケタ世代の良男さんは多くを語らないが、妻の歩行で異変を感じたときは手を取り、体を支えているそうだ。
千葉YMCA理事長をはじめ、全国で50にのぼるボランティア団体の要職を務めた倉石昇さん(79)は、ボランティア活動に精を出す仲の良いシニア夫婦を何度も見てきた。「手をつなぐ夫婦は、団塊の世代が属する65~70歳が多い。これからは介護で80歳以上も手をつなぐようになる」と予測する。
11月22日は「いい夫婦の日」。これまでの夫婦関係を振り返り、そしてこれからの道のりに思いをはせ、互いの手を見つめてみるのも悪くない。
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190402_39
C型と並ぶ慢性肝炎であるB型は、母子感染の予防が徹底された半面、大人が性交渉によって感染する例が最近目立つ。同じB型でもウイルスの遺伝子型が従来と異なるタイプも増えている。がん治療などの際に体内に潜んでいたウイルスが再び活性化する例もあり、注意が必要だ。
B型肝炎はウイルス(HBV)に感染して起こる。国内の感染者は推定で150万人程度いる。出生時に母子感染すると、肝臓にウイルスがすみ続ける持続感染者(キャリア)になる。あるときにウイルスが増加し慢性肝炎になる。自覚症状がないケースが多い。放置すると肝臓がんになる恐れがあるのはC型肝炎と同様だ。
■母子感染は激減
従来の対策は母子感染を防ぐことが柱で、約30年前から生後すぐにワクチンを接種する取り組みが始まり、乳児がキャリアになるケースは激減した。近ごろ多いのは思春期以降の性交渉による感染だ。
典型的なケースはこんな感じだ。東京都に住む35歳の男性は体が突然だるくなり、尿の色も濃くなった。心配になってかかりつけの診療所を受診し血液検査を受けたところ、肝機能を示す値が異常だった。顔が黄色くなる黄疸(おうだん)も現れてきたため、主治医は専門医の受診を勧めた。男性の血液を改めて検査すると、HBV感染が判明した。
性交渉でHBVに感染すると、1~6カ月の潜伏後に急性肝炎を引き起こしやすい。血液中にウイルスをやっつける抗体が増えると、ウイルスは排除されるか、少し残るだけになる。この状態でも特に問題はなく、慢性肝炎に移行する例はほとんどなかった。
HBVの遺伝子型は約10種類ある。このうち日本で多いBとCというタイプは性交渉などで感染しても、一過性で終わる場合が多かった。
しかし最近十数年で、欧米に多く、遺伝子が従来と異なるAタイプのウイルスが検出されるケースが増えている。手稲渓仁会病院(札幌市)の姜貞憲主任医長は「Aタイプは慢性化しやすい傾向がある」と指摘する。成人後に感染しても1割以上が慢性化するという。薬で慢性化を防ぐ方法は確立されていない。
<お詫び・訂正>
11月1日6時30分に掲載した「B型、体内に潜み再活性化の恐れ 増える性交渉感染」の記事中、「東京都に住む35歳男性」はB型肝炎患者の典型的なケースを示すもので、東京医科歯科大学で検査・治療にあたった特定の患者の事例ではありませんでした。 (2014/11/27 17:48)
B型肝炎の治療では、ウイルスの増殖を抑える「核酸アナログ製剤」や免疫の機能を高めてウイルスの排除を目指す「インターフェロン」を用いる。核酸アナログ製剤では今年5月、エイズウイルス(HIV)向けに使われていた「テノホビル(一般名)」がHBV治療に使えるようになった。
従来の薬が効かなくなった耐性ウイルスでも効果が期待できるという。ただし増殖を抑えるだけなので薬を飲み続ける必要がある。
一方、インターフェロンはだるさや発熱、筋肉痛などの副作用の懸念が強い半面、耐性ウイルスが出現しにくい利点がある。半年~1年間、週1回のペースで注射するのが基本だ。
通常、35歳以下を目安に若い人はインターフェロンでウイルスを排除し、薬を飲まなくて済む形を目指す。ただウイルスを排除できる割合は低く、「核酸アナログ製剤でウイルスの増殖を抑える治療になることが多い」と東京医科歯科大学の朝比奈靖浩教授は話す。
■生肉食べE型も
治療を難しくしている原因にはウイルスの「再活性化」もある。HBVはいったん検出されなくなっても、肝臓の細胞にウイルスがすみ続けている場合があることが分かってきた。「成人でB型肝炎にかかったことがある人の肝臓を移植した人が、B型肝炎を発症したことなどから判明した」(朝比奈教授)。移植では病原体などから身を守る免疫機能を抑える薬を使うため、ウイルスが再び暴れ出しやすくなる。
また、B型肝炎が治ったと思われていた患者が悪性リンパ腫を患い、その治療薬を投与中に体内にいたウイルスが再び増加。その後、急に重い肝炎になって亡くなったケースも報告されている。
体内に潜んでいるウイルスを完全に排除できる治療法は今のところない。朝比奈教授は「B型肝炎の感染歴があり、がんや関節リウマチなどを発症した場合は、治療を始める前に主治医に伝えることが大切だ」と強調する。
B型やC型以外で注意したほうがよいのがE型肝炎だ。野生のシカやイノシシの肝臓にE型肝炎ウイルス(HEV)が感染している場合があり、これらの肉を十分加熱しないまま食べると人にも感染する。市販のブタのレバーでも感染例がある。潜伏期間が半月~数カ月程度あり、原因の特定が難しい。肝臓を保護する治療で回復することが多い。
2011年の焼き肉チェーン店での集団食中毒を受け、厚生労働省は飲食店でのウシの生レバーの提供を禁止した。その代替としてブタの生レバーを提供する店が増えているという。こうした事態を受け、厚労省はブタでも生食を禁じる方針だ。野生鳥獣肉(ジビエ)も十分加熱することを肝に銘じたい。
岩井淳哉が担当しました。
[日本経済新聞夕刊2014年10月31日付]
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190402_40
肝臓は沈黙の臓器といわれ、病気になっても気づきにくい。慢性肝炎の大半を占めるウイルス感染によって起こるC型やB型の肝炎も同様で、肝硬変や肝臓がんと進行する危険がある。今年、肝炎の新薬が登場した。副作用の抑制や高い薬効などが期待されており、治療法も変わりつつある。肝炎治療の最前線を2回にわたり紹介する。
C型肝炎の新治療薬が9月に発売された。「ダクラタスビル塩酸塩(一般名)」と「アスナプレビル(同)」という2つの飲み薬で、一緒に服用する。通常使われる「インターフェロン」は効果が期待できる半面、副作用の懸念も強い。新薬は体力のない高齢者やインターフェロンが効かない患者でも投与できる。
C型肝炎はウイルス(HCV)が引き起こす肝炎だ。感染した人の血液を介してうつるが、感染力が弱く日常生活ではほとんどうつらない。昔は輸血や注射器の使い回しなどが感染の原因だったが、今は「薬物乱用などで起こる注射器の使い回しや、ピアス、入れ墨などで感染するといわれている」と東京医科歯科大学の朝比奈靖浩教授は話す。
■感染の症状は軽く
感染すると、発熱や体のだるさ、食欲不振など急性肝炎の症状が現れるが、程度は軽く肝炎に気づかないケースが大半だ。感染者の約7割が慢性肝炎に移行する。その後、感染が持続すると高い確率で肝硬変になり、さらに肝臓がんを発症する。「C型肝炎の国内患者数は推定150万人程度だが、治療しているのは約40万人にとどまる」(朝比奈教授)
治療では通常、インターフェロンを使う。ウイルスの増殖を抑えるために体内で分泌されるたんぱく質で、これを人工的に作り投与する。他の薬との併用が基本だ。かつて週3回だった注射は、持続型のペグインターフェロンにより週1回で済むようになった。治療期間も最短で半年になるなど治療法は進化している。ウイルス排除の成功率も9割近くに達している。
インターフェロンは治療の中心だが、副作用の懸念も強い。だるさや発熱、筋肉痛などが起き、長く続けると髪の毛が抜けることもある。東京都内に住む50代男性のAさんは治療でだるさを覚え、仕事を休まざるを得なかった。「二度とインターフェロン治療はしたくない」と思ったが、主治医と相談し、完治を目指して投与を続けている。
武蔵野赤十字病院(東京都)の泉並木副院長は「数は少ないが、うつや間質性肺炎になり、治療を中断せざるを得ない患者もいる」と指摘する。特に体力のない高齢者やうつ症状が現れた患者は、C型肝炎治療を中止する例もあるという。また、いったん治ったと判断された場合でも、ウイルスが再び増えて肝炎をぶり返してしまう患者がいる。
■学会も指針を改訂
今回の新薬はこうしたインターフェロン治療が難しい患者にとって朗報だ。2剤を半年間飲み続ける。それぞれ細胞内でHCVが増える際に利用するたんぱく質の働きを妨げる。標的とするたんぱく質は別なので、一緒に使えば相乗効果が期待できる。臨床試験(治験)では8~9割の患者でウイルスを排除できたという。
飲み薬で副作用が少ないと良いことずくめのようだが、注意点もある。それは薬が効きにくいように変化してしまう耐性ウイルスの問題だ。インターフェロンは体の免疫機能を利用するため耐性が出にくい。一方、ウイルスを直接に攻撃する薬はウイルスが変異して耐性を持ちやすいという。「これまでの治療法はインターフェロンが中心にあることで耐性ウイルスの出現を抑えていた」と朝比奈教授は指摘する。
2種類の新薬はこうしたインターフェロンの作用を期待できず、耐性ウイルスが出現しやすい状況にあるという。このため泉副院長は「インターフェロン治療が可能な人はできる限り従来の治療法を受けてほしい」と強調する。
肝臓の専門医らで構成する日本肝臓学会も注意喚起や医師への周知に乗り出した。新薬の発売に合わせてC型肝炎の治療ガイドラインを改訂し、9月に発表した。
この中で、新薬による治療はインターフェロンの治療ができない患者に限ることにした。ガイドライン作成に関わった朝比奈教授は「今まで治療をあきらめていた人にも広がる意味で、新薬は非常に価値がある。しかし、その使い方については議論が多かった」と話す。
治療でウイルスを排除できれば、肝炎の進行を抑えて肝硬変や肝臓がんの発症リスクも大幅に下がる。厚生労働省はC型肝炎の治療費を補助しており、新薬も対象になっている。血液検査などで肝炎ウイルスの感染が疑われたら、早めに肝臓の専門医を受診したい。リスクも含めて医師と十分に話し合いながら治療を進めることも重要だ。
[日本経済新聞夕刊2014年10月24日付]
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190402_41