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ドイツから帰国後、東京・西新宿7丁目に事務所を構えた。
「世界を飛び回るビジネスを始めるなら、どの都市がいいですか」。ドイツ留学中、ある日本人商社マンに尋ねてみました。そうすると「米ニューヨークか東京だ」との答えが返ってきました。私は大阪生まれ、大阪育ち。東京には土地勘がありません。しかし「ドイツでビジネスが成功したのは競争が激しくない欧州だったからだ」と批判されたこともあって「ならば世界でも激戦区と言われる東京で成功してみせる」と単身上京することにしました。
ドイツ留学中の副業で稼いだ約1000万円を元手にして、1976年に「秀(ひで)インターナショナルサービス」を起業しました。東京・西新宿に電話1本と2台のデスクを置いた小さな事務所で始めたのは、毛皮製品の輸入販売でした。
きっかけはコーヒーです。欧州で飲んだコーヒーはおいしいのに価格は日本の半額程度。「内外価格差」の大きさに驚きました。こうした価格差を調べると、最も大きな差があったのが毛皮製品でした。当時から毛皮製品はぜいたく品で、欧州で安く仕入れた毛皮は3倍の値段でも日本では売れると考えました。
ところが起業した矢先に野生動植物の国際取引を規制する「ワシントン条約」が日本でも批准される見通しとなってしまいました。そうなると毛皮製品の輸入は難しくなり、収入源も途絶えてしまいます。家賃も毎月かかります。そこで仕方なく生活のために始めたのが航空券の販売でした。
当時は格安航空券という言葉もなく、航空運賃は規制に守られていた。
当時の日本では航空券は正規運賃がほとんどで、欧州までの往復運賃は100万円近くかかっていました。その一方で、欧州では格安航空券の市場がすでに確立していました。日本でもごく少量ですが、格安航空券が出回っていましたが、私のような旅行好きしか知らない「裏技」のような存在でした。
日本の消費者は不当に高値で航空券を買っているのではないか――。こうした疑問が浮かんできました。高値の航空券を安く売れば消費者はハッピーになり、航空会社も搭乗率が向上してメリットもある。もちろん、私にも収入が入る。誰もが幸せになるビジネスチャンスを航空券に見いだしました。
1980年にエイチ・アイ・エス(HIS)の前身となる「インターナショナルツアーズ」を起業し、旅行業登録しました。少し先の話となりますが、90年にHISに社名変更しました。最初に創業した「秀インターナショナルサービス」の略称を元にしてHISと命名しましたが、「Highest International Standards(世界最高水準)」という意味も併せ持ちます。
格安航空券の販売に参入しましたが、最初の半年は全く注文が来ませんでした。
[日経産業新聞2016年1月8日付]
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190402_17
ユーラシア大陸を陸路で渡って帰国する途中、肝炎にかかり生死の境をさまよう。
ビルマ(現ミャンマー)の薄汚れた安宿のベッドで、寝たきりの状態で天井だけを見つめていました。小便は茶色で、鏡に映る顔も茶色で生気がありません。歩くだけで脂汗が出て疲れてしまう状態でした。
それでもいずれ治ると考えていました。医者にかかっていませんでしたので病名は分かりませんでしたが、自分は若いし、おいしい食事と休息でそのうち元気になると考えていたのです。
ところがこの判断が間違っていました。肝炎では食事を摂り過ぎではいけないのです。私はその時、まさか肝炎にかかっているとは知りません。食べれば食べるほど病状は悪くなりました。無知であることの怖さを学びました。
このままでは死にきれない。体にむち打って病院に向かいました。たどり着いた現地の病院は掘っ立て小屋のような建物で、門の前には100メートル以上の長蛇の列ができていました。
2~3時間、待たされた診察は数分で終わりました。尿検査や血液検査もなく、渡されたのが古新聞にくるまれた10錠ほどの正体も分からない薬だけ。あまりにもショックで、薬は飲みませんでした。「いよいよ死んでしまう」。絶望的な気持ちが強まっていきました。
ビルマで1週間、寝たきりの状態が続いた。
ベッドであおむけになって天井を見つめ続けるか、窓の外の景色を眺めるだけの毎日でした。テレビもラジオもなく、日本語で話せる相手もいません。死への恐怖や孤独、経験したことのない絶望に襲われながら「もっとあれをやっておけばよかった。あそこにも行きたかった」という後悔の念が押し寄せました。
しかし、ここで何とか踏みとどまりました。「もっと世の中のためになる仕事をしなければ」。そう思い直し、残っていた力をふり絞って空港に向かいました。タイ行きの飛行機で出国、バンコクの病院で近代的な治療を受けることができました。これでようやく病状は回復。日本に帰国の途に就いた時には元気な姿に戻っていました。
この経験が人生でチャレンジすることの大切さを教えてくれました。ビジネスで失敗しても、財産を失うことはあっても命までは奪われません。死ぬ時に後悔しないよう挑戦したいことは何でもチャレンジすべきだと思うようになりました。ビジネスで既得権益の壁に阻まれたり、だまされたりしても何も恐れることはなくなりました。
ドイツ留学は4年半の長い旅だったと言えます。フランクフルトでビジネスの醍醐味に目覚め、ビルマで起業家としての心構えを身につけました。異文化や様々な宗教にも触れ、人間としての幅も広がりました。経営者としての沢田秀雄はまさに旅から生まれたのです。
[日経産業新聞2016年1月7日付]
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190402_18
ドイツ出張の日本人を相手に夜の歓楽街を案内するナイトツアーを企画した。
留学先だったドイツのマインツの近隣に、欧州を代表するビジネス都市であるフランクフルトがありました。国際的な見本市が毎日のように開かれ、多くの日本人ビジネスマンが訪れていました。最初は日本人ビジネスマン向けに通訳のアルバイトをしていたのですが、そのうち「観光案内もしてほしい」という依頼を受けるようになりました。
フランクフルトには不当に高額な料金を請求する「ぼったくり」がありましたし、歓楽街も治安が良くない印象を持たれていました。出張中の日本人ビジネスマンは、息抜きで遊びたくても遊べません。
安心して観光したいという日本人ビジネスマンのニーズに応えれば、通訳のアルバイトよりも効率的に旅行資金を稼げるかもしれないと考えました。そこで、飲食と音楽ショーを楽しめる日本語通訳付きのナイトツアーを企画したのです。
1カ月で100万円以上を稼ぎ、ビジネスの魅力に目覚める。
ナイトツアーの価格は100マルクに設定しました。当時の日本円換算で1万円程度です。地元で人気のお店でドイツ料理を味わったり、ビアホールでドイツ民謡を楽しんだりすると120~130マルクはかかるのが普通でしたので、一般的な観光ツアーより2~3割安い。大人気となりました。
「安心できる」というのも人気の理由でした。日本人が宿泊する高級ホテルに案内パンフレットを置き、フロントのドイツ人からもツアーを薦めてもらうようにしました。高級ホテルのフロントのお墨付きがあれば、日本人も安心してツアーを予約します。もちろん、フロントには1人につきツアー料金の10%を紹介料として渡していました。
当時、ナイトツアーといっても案内はドイツ語が大半でしたので日本語ができる通訳はとても重宝されました。ビアホールでは楽団にチップを渡しておいて、日本人ツアー客を見ると日本の曲を演奏してもらいました。異国の地で突然、「上を向いて歩こう」のような日本の曲を聴くのはうれしいものです。ほとんどのお客さんがこのサプライズ演出を喜んでくれました。
私自身も含めて、ホテルのフロントも、飲食店も、日本人客もみんなが満足しました。全員がハッピーになれるビジネスが私の起点となりました。
ドイツでの生活も4年が過ぎていました。ドイツの大学は卒業が難しかったため、卒業は断念しました。ナイトツアーで稼いだお金は旅行費用になりましたが、それでも1000万円が手元に残りました。そのお金で日本でもみんなが幸せになれるビジネスを起業したいと考えました。ところが、ユーラシア大陸を横断して帰国する途中で、人生観を大きく変える出来事が起きるのです。
[日経産業新聞2016年1月6日付]
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190402_19
忘年会、お正月、新年会と続く年末年始は、食べ過ぎやお酒の飲み過ぎによって体調を崩しがちだ。たとえ食べ過ぎ・飲み過ぎたとしても、それをなかったかのようにカラダを復活させてくれる、ありがたい即効リセット術を紹介しよう。
楽しい忘年会でつい飲み過ぎ……。吐き気、だるさ、頭痛など、何度経験してもつらい二日酔い。後悔先に立たず。昨晩の飲み過ぎをなかったことにできるような、つらい症状から素早く立ち直れるありがたい解決法は……。
二日酔い対策に詳しい、自治医科大学附属さいたま医療センター消化器科講師の浅部伸一医師に取材して分かった即効リセット術は以下の通り。順を追って詳しく説明していこう。
二日酔いへの即効対処法 (1) 最初に水分補給。スポーツドリンクや味噌汁もお勧め。
(2) アミノ酸やビタミンB1を中心に補給。サプリメントの活用も。
(3) 頭痛がある場合、水分補給で治らない場合はカフェインも試す価値あり。
(4) 胃薬も即効性あり。胃酸を抑える薬や整腸剤、乳酸菌製剤、吐き気止めなどを服用。
(5) それでも治らない場合は医療機関で医師に相談。
■カラカラの体に、まずは水分補給
まずは二日酔いの原因について知っておこう。「アルコールの飲み過ぎによる脱水状態、体内で過剰に発生したアセトアルデヒドの作用、胃の炎症などが主に考えられています」と浅部医師が説明してくれた。それぞれ不調をきたす理由を理解したうえで、対策を講じるといいだろう。
お酒を飲むと脱水状態になってしまうのは何故だろうか。「アルコール類には利尿作用がありますので、おしっことして水分を外に出してしまいます。加えて、おつまみには塩分過多のものが多く、これを排せつするためにも水分が使われてしまいます。二日酔いの翌朝の体内は、水分不足でカラカラだと思ってください」(浅部医師)。こうした脱水状態は、頭痛やめまいなど、様々な症状を引き起こす。
このため、二日酔いの朝にまず行うべき処置は、水分を補給することだ。「特にお勧めなのは、塩分や糖分が含まれ、吸収もいいスポーツドリンクです。二日酔いのときは胃が荒れていることが多いので、真水よりは少し塩分が入っていたほうが胃にやさしく、刺激も少ない。さらに、尿の排出に伴って、糖分も不足していることが多く、これがだるさの原因になりますので、糖分の補給もある程度は必要です。冷やす必要性はなく常温が一番いいですよ」(浅部医師)。気持ち悪くなければ、塩分を含む味噌汁、水、野菜ジュースなど、自分が飲みやすいものを選ぶといい。
ただし、スポーツドリンクを日常的に飲用すると糖分過剰になる可能性があるので、そこは注意が必要だ。「スポーツ選手でも、スポーツドリンクの過剰使用によって糖尿病になる選手もいる」(浅部医師)という。
ちなみに、お酒の飲み過ぎで急性アルコール中毒になって病院に運ばれる人もいるが、最初の処置は点滴になる。これは、血管の中に直接、水分を補給するために行うもの。つまり、病院でも飲み過ぎの患者に最初に施すことは水分補給というわけだ。
■肝臓の働きをアミノ酸、ビタミンでアップ
二日酔いの2つ目の原因であるアセトアルデヒドとは、アルコールが体の中で代謝される際に生じるものだ。体に入ったアルコールのほとんどは肝臓で代謝されるが、体が処理できる量であれば、筋肉や脂肪組織に運ばれて二酸化炭素と水に分解され、呼気や尿となって身体の外へ出ていく。しかし、アルコールの量が多過ぎると、分解しきれなかったアセトアルデヒドが血中を巡る。アセトアルデヒドは毒性が強く、吐き気や頭痛など二日酔い症状の原因となる。
このため、酷使している肝臓の働きを高める処置を行うと、アセトアルデヒドの産生防止につながり、二日酔いの早期解消につながる。具体的には、「アミノ酸やビタミンBの摂取が望ましい」(浅部医師)。
たんぱく質が代謝されて生まれるアミノ酸には、肝臓の解毒作用、アルコール代謝を促進するなど、肝機能を向上させる効果がある。中でも、浅部医師のオススメは「BCAA」(分岐鎖アミノ酸)。「科学的な立証はまだだが、炎症を抑え、肝臓を保護する効果も認められているので、二日酔い対策の効果が期待できる」(浅部医師)という。
アルコールが肝臓で分解される時には、ビタミンB1も大量に消費される。ビタミンB1は糖質の代謝を助け、エネルギーを作り出す働きがある。これが欠けるとだるさを感じるようになるため、積極的に補給したい。
BCAAは魚、肉、ご飯、そばなどに多く含まれ、ビタミンB1は豚肉、うなぎ、たらこなどに多く含まれる。飲み過ぎの後で胃腸も弱っていたら、サプリメントを活用して摂取する手もある。
■吐き気や胃もたれには胃薬を服用
お酒の飲み過ぎは、食べ過ぎ同様、胃もたれや胸焼けを引き起こす。アルコールは胃を刺激して、食べた物を消化するための胃酸の分泌を促す。この胃酸は強い酸性で、アルコールの刺激によって胃の粘膜の働きが弱っていると、不快な症状を引き起こすのだ。特に空きっ腹でお酒を飲むと、アルコールは分子のサイズが小さいため、胃の粘膜を通り抜けて刺激を与えやすい。
「胃のもたれや吐き気の症状がきつい時には、胃薬を飲んでください。特に前の日に吐いたりすると胃は荒れていますので、胃酸を抑える『制酸薬』が有効です。『整腸剤』や『乳酸菌製剤』、また中枢神経を抑える吐き気止めも効きますし、飲み過ぎただけでなく食べ過ぎてしまった場合は併用してもかまいません」(浅部医師)。まずは胃を早く治して、普通の食生活に戻すことを優先したい。
「どんな薬でも副作用が出る可能性はありますが、飲み過ぎによる急性の胃炎の場合は、1週間程度は続けて飲んでも基本的に問題ありません」(浅部医師)。ただし、それでも治らなければ、何か別の原因がある可能性があるので、医療機関を受診すべきだ。
一方で、頭痛がある場合は頭痛薬を飲んでもいいのだろうか。「脱水が原因の場合は水分補給でだいたい治るので、まずは水分を補給してください。アセトアルデヒドによる血管の拡張作用が原因なら、血管を収縮させるカフェインを含むコーヒー、お茶が有効な場合もあります。それでも治まらないようなら頭痛薬を飲んでもいいですが、副作用で胃を荒らすので、胃が弱っているときは飲み過ぎに要注意です」(浅部医師)
■二日酔いを避けるには事前に固形物を食べる
今回は飲み過ぎた後の対処法を主に紹介したが、やはり二日酔いにならないことが一番だ。もちろんお酒を適量で抑えればそれで済む話なのだが、どうしても飲みすぎてしまいそうな場合の事前の対処法も浅部医師に聞いた。
まずは、固形物を先にお腹に入れておくこと。アルコールは胃からも十二指腸からも非常に効率よく吸収される。胃の中に固形物を入れておくと、胃の出口がいったん閉まり、飲んだお酒がしばらくは胃に留まる。そして食べ物を消化してから、少しずつお酒を腸に送っていくようになる。
アルコールは胃からも少しずつ吸収されるが、事前にちょっとでもお腹に入れておけば、そのスピードをかなり緩めることもできる。「胃に入れるものは肉でも魚でも枝豆でも何でもいい」(浅部医師)。なお、牛乳を先に飲んで胃の粘膜をカバーするといった話もよく耳にするが、その効果に根拠はないとのことだ。
もう一つは、飲食の間にこまめに水を飲むことだ。胃腸内のアルコール濃度を薄める効果がある。さらに、飲酒後はアルコールの利尿作用によって脱水になりやすいので、それを防ぐ効果もあるという。
最後に、二日酔いでもどうしても飲まなければならない場合にはどうしたらいいか、浅部さんに聞いてみた。「医師としては勧められません。できれば避けてください」とのことだった。
(継田治生=ライター)
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190402_20
歯がグラグラして最終的には抜けてしまう歯周病は、成人の多くが患っている炎症性の病気だ。虫歯と並ぶ歯科の二大疾患だが、影響は口腔(こうくう)内にとどまらない。これまでの研究から、肝臓病や心臓病、糖尿病など全身の疾患とも密接に関係していることが分かってきた。歯周病を治療すれば、こうした全身疾患の症状改善にもつながる。
歯周病は歯と歯茎の間に細菌の塊である歯垢(しこう)や歯石がたまり、細菌感染を引き起こす。この結果、歯の周りに炎症が起こる。初期は歯茎が腫れる歯肉炎、進行すると歯を支える骨が破壊される歯周炎と呼ばれる。軽い症状まで含めると日本人の成人の約8割が歯周病にかかっている。自覚症状がないまま進行し、放置すると歯が抜け落ちてしまう。さらにその影響は全身に及ぶ。
◇ ◇
神奈川県在住の女性のAさん(46)は肥満などが原因で発症する「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」を患っていた。肝機能に障害も出て横浜市立大学付属病院(横浜市)を受診し、食事制限とともに積極的に体を動かす食事運動療法に半年間取り組んだ。薬物治療も受けたものの、「ALT」という肝機能を示す数値は異常値のままだった。
Aさんは歯茎に出血もみられたため、神奈川歯科大学付属横浜クリニック(横浜市)で歯周病の治療をすることにした。口の中の状態が改善すると、ALTの値がほぼ正常値まで下がった。横浜市立大病院消化器内科と横浜クリニックで診療にあたる結束貴臣医師は「歯周病菌が血液中にしみ出して全身を巡り、肝臓に届いて炎症を起こしている。歯周病の改善でこうした症状が抑えられたのだろう」と指摘する。
肝炎と飲酒は関係が深いが、NASHはアルコールをたしなまない人でも肝臓に脂肪が蓄積する。これまでも「食事療法や薬物投与によっても症状が改善しない患者が一部いる」(結束医師)ことが知られていた。こうした患者に歯周病治療を施せば、NASHの症状改善につながる可能性があるという。
このため、年内にも横浜市立大病院と神奈川歯科大付属病院(横須賀市)、横浜クリニックで医師主導の臨床試験(治験)を始める予定だ。20歳以上でNASHと歯周病を患い、食事運動療法と薬物が効かない200人が対象になる。
歯科医が歯磨きの方法を指導したり、歯に付いた歯石を取り除いたりする。歯周病の症状が進んだ人では、歯茎を局所麻酔して、歯根と呼ばれる歯茎で隠れた部分に付着した歯周病菌を除去する。こうした治療によって肝機能が改善するか詳しく調べる。
歯周病と関連があるとされる病気はほかにもある。よく知られているのが糖尿病だ。この病気は血糖を下げるホルモンのインスリンがうまく働かなくなったり足りなくなったりする。東京都健康長寿医療センター研究所の平野浩彦専門副部長(歯科医師)は「糖尿病の人は歯周病にかかりやすく、歯周病の人は糖尿病が重症化しやすい。相互に関係している」と指摘する。
米国の研究によると、生活習慣などから発症する2型糖尿病の患者は糖尿病ではない人に比べ、歯周病が重症化するリスクが1.5~3倍程度高かった。糖尿病患者は病原体などから身を守る免疫の働きが低下しており、炎症による組織の破壊が進みやすいことなどがその理由とされている。
また、歯周病菌から出される毒素が血管内に入ると、炎症性物質がつくられ、インスリンができにくくなり、血糖値が上がることも分かっているという。「薬や食事のコントロールをしても血糖値が下がらない患者が、歯医者に行くと症状が改善することもある」(平野専門副部長)。歯周病の治療によって、インスリンの作用を阻害する炎症性物質の血中濃度が減少するためだと考えられている。
歯周病は中年以降に多い病気だと思われがちだが、若い世代でも発症するタイプもある。「侵襲性歯周炎」と呼ばれている。細菌感染で起こるのは通常と変わらないが、家族内で発症するなどの特徴から「遺伝が関係している」と神奈川歯科大学の鎌田要平助教は説明する。
侵襲性歯周炎の人は20~30代で歯を支える骨の状態が通常の人より大きく悪化しており、歯が抜けやすくなっている。妊娠・出産をする女性が歯周病だと「早産や低体重児出産のリスクが高まる」(横浜市立大の結束医師)。妊娠前に歯科医院を訪れて口の中をチェックすることが大切だと専門家は注意喚起している。
明確な関係性の解明はこれからだが、高齢女性に多い骨粗しょう症患者も歯周病に気をつけた方がよさそうだ。骨粗しょう症では破骨細胞による骨の破壊が骨の再生能力を上回ることで、骨がもろくなってしまう。「歯周病患者は歯周病菌の影響で骨を支える部分の破骨細胞が活発になっている」と松本歯科大学の宇田川信之教授は話す。歯周病にも気をつけることが、骨折などを防ぐのに役立ちそうだ。
歯周病は、心筋梗塞などにつながる動脈硬化、慢性腎臓病、誤嚥(ごえん)性肺炎などとの関連も指摘されている。口の病気だと甘く見ずに、しっかり治療することが他の病気を防ぐことにつながる。
■「一生つきあう病気」 口腔ケア大事
歯を十分に磨けていないと歯と歯茎の間に歯垢がたまってしまう。その結果、歯と歯茎の間の溝である「歯周ポケット」が深くなって、さらに歯垢がたまり、炎症が拡大する。最終的には歯を支える土台である歯槽骨が破壊され、歯が抜け落ちる事態を招く。
歯周病になる歯が1本ということはない。このため「歯周病で炎症を起こした部分の面積を足し合わせると、手のひらほどの大きさになる」と東京都健康長寿医療センター研究所の平野浩彦専門副部長は話す。もし、やけどがこれほどの大きさだったら放置しないだろうが、歯科医院に行かない人も一定数いるのが現状だ。
歯周病は歯が残っている人に起こるから自分の歯がない人は関係ないと思うかもしれない。しかし、近年普及している人工歯根(インプラント)を埋め込む治療でも「インプラント周囲炎」という症状が出ることがある。これは歯周病と同じく歯垢や歯石などが原因で起こる細菌感染による炎症だ。「歯周病は一生つきあう病気と考えるべきだ」と専門家は口をそろえる。
(新井重徳)
[日本経済新聞朝刊2015年11月15日付]
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