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生肉を食べて、E型肝炎になるケースが目立ってきた。3年前に牛レバーの生食販売が禁止されたのを受け、豚生肉を提供する店が増えたのも影響するといわれる。豚肉は中心部まで十分加熱して食べれば問題ないが、生肉を触れた調理器具などから感染することもあるため、取り扱いには十分気をつけたい。イノシシなどのジビエ肉についても同様の注意が必要だ。
厚生労働省は12日、飲食店などで、レバーなど内臓を含む豚の食肉を生で提供することを禁止した。動物から人に感染することがあるE型肝炎にかかるリスクが高いからだ。
2011年4月に発生した焼き肉チェーン店での集団食中毒を受け、厚労省は牛レバーの生食用としての販売を12年7月に禁止した。その後、飲食店で代替品として、「豚のレバ刺し」などを提供する店が目立ってきた。各自治体の調査をまとめると、12年12月末には全国で80店舗だったが、13年夏には190店舗と一気に増えた。豚しゃぶでE型肝炎になることもあるという。
と畜場で食肉用に出荷された豚の肝臓を調べたところ、約2%がウイルスを持っていたという報告もある。また、北海道や都内のスーパーマーケットや精肉店の生の豚レバーを調べたところ、2%前後でウイルスが検出されたという。
こうした実態を受け、厚労省は公衆衛生上のリスクが高いと判断し、生の豚肉の販売を禁止した。「新鮮でも豚肉にウイルスが含まれていることはあるし、特定の病原菌を持たないSPF豚もリスクはある」(厚労省食品安全部基準審査課)と注意を喚起する。
実際、黄疸(おうだん)と全身のだるさなどを訴えて病院を受診し、検査の結果、E型肝炎と診断される例が最近になって増えている。国立感染症研究所の調査によるとE型肝炎の患者数は11年には61人だったが、12年には121人と急増。14年には154人(暫定値)に増加した。
E型肝炎はウイルスに汚染された食物を食べたり、水を飲んだりして感染することが多く、衛生状態が良くない途上国を訪れた人が帰国後、発病する「輸入感染症」とみられていた。だが、00年ごろから渡航歴のない患者でウイルスが見つかり、イノシシやシカなどの肉を生で食べると感染することがわかってきた。
最近のE型肝炎の患者はほとんどが国内での感染だ。E型肝炎は生肉などを食べてウイルスに感染してから発病するまでの期間が平均6週間と長く、感染源を絞り込むのは難しい。
感染研が12年から3年間にE型肝炎に感染した375人の感染源を調べたところ、不明が6割と最も多かったが、食材が推定された中では、豚が最も多く、次いでイノシシ、シカが多かった。豚肉が疑われた患者のうち、およそ半数が豚レバーを食べ、3分の1が生の肉を食べていた。
E型肝炎は50歳以上の中高年の男性に多く見られるのが特徴。豚肉の消費量が多い東日本の方が、西日本に比べて多いという。
ウイルスに感染しても症状が出ないことも多い。ただ、高齢者が感染すると黄疸や発熱、嘔吐(おうと)、全身のだるさといった症状が出やすくなる。
「E型肝炎に特化した治療薬はないので、重症度に応じた対症療法をしつつ、自然に治るのを待つしかない」と東芝病院の三代俊治医師は話す。
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まれに急性肝炎が悪化して劇症肝炎になることがある。その場合は「血液を浄化したり、ステロイド剤で治療したりする」(三代医師)ことになる。
劇症肝炎から死に至るケースもある。国内では平均して毎年1人亡くなっているという。また、国内では報告されていないが、海外では妊婦がE型肝炎に感染すると致死率は20%との報告もある。感染を防ぐには「肉に火をよく通して食べれば、大丈夫」と感染研感染症疫学センターの砂川富正室長は言う。厚労省は豚肉の中心部を63度で30分以上加熱するか、75度で1分間以上加熱しなければならないとしている。
「生の豚肉を触ったトングやはしで、サラダなどを食べるのもやめた方がよい」と三代医師はアドバイスする。
イノシシの肉が入ったカレーを食べた家族のうち、調理をした人だけが、劇症肝炎になった例もある。手からの感染が疑われており、豚の生肉を調理するときは、念のため、手袋をしておく方がよいかもしれない。
豚だけでなく、イノシシやシカなどのジビエ肉にもE型肝炎ウイルスが含まれているリスクがあるので、「豚と同じようによく加熱して食べる必要がある」と砂川室長は指導する。
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■E型、他の動物にも A型より高いリスク
肝炎ウイルスにはA、B、C、D、E型があるが、動物から人に感染する人獣共通の感染症はE型肝炎だけだ。ウイルスを持っているのは豚、イノシシ、シカ、ウサギやマングース、ラクダなどが知られている。
E型はA型に似ているが、重症である劇症肝炎になるリスクがA型より10倍も高いといわれている。インドなどではE型肝炎に感染する人が多く、なかには3回もかかった人がいるという。
E型肝炎ウイルスの遺伝子は多様だが、日本で見つかるのは主に3型と4型と呼ぶタイプ。
これまで報告されている劇症肝炎の多くは、4型による感染だ。3型は重症化せず、軽症で済むと考えられている。だが、高齢者や既にB型肝炎ウイルスに感染していたり、アルコール性肝炎などにかかったりしている人では重症化する恐れがあるという。
3型は全国どこでも見つかるが、4型は北海道以外ではめったにみつからない。ただ、北海道の4型とは異なる4型が、東海地方の一部のイノシシから見つかっている。
(西山彰彦)
[日本経済新聞朝刊2015年6月14日付]
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190402_26