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「男子用を女性が使用するのはやめて」「まつげカール器を加熱しないで」。最近、各地の公共トイレで、利用者にこんな注意を呼びかける貼り紙が目につく。清潔さや機能面で先進性を世界に誇る日本のトイレだが、利用するマナーの面では問題も少なくないようだ。公共トイレの中で、何が起きているのだろうか。
「ここから先 男子用トイレ」。近畿自動車道の東大阪PA(大阪府東大阪市)の男子トイレ入り口で、目を引くポスターがある。スカート姿の赤いシルエットが男子トイレに入ろうとする絵に「車両通行止め」のマークが重なる。
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作ったのはNEXCO西日本の大阪高速道路事務所の職員だ。「女性の方の利用はご遠慮ください」の文言通り「男子トイレに女性が入っている」との声に対応した。
同社は2014年から今年3月まで、名神高速道路の吹田SA(大阪府吹田市)に「『今だけ男』の独自ルール適用もご遠慮ください」というユニークなポスターを掲示していた。今回は第2弾にあたる。
掲示しているのは、売店のあるメーン棟から少し離れた「サブトイレ」の入り口。吹田SA、東大阪PAとも、メーン棟には十分なトイレ個数があるが、このサブトイレは少なめだ。「マイクロバスなどから大人数が一斉に降りてサブトイレを利用しようとしたとき、女子トイレが少ないと勘違いし、男子用に入ってしまう傾向がある」(管理第二課の松野照雄課長)
くさくて汚い。暗くて危険。しかも壊れている。かつてこんな「5K」状態だった公共トイレ。改善が進み、清潔さと多機能さは世界が驚くレベルになった。しかし、美しくなった公共トイレの中で起きているマナー違反は「無法地帯」とでもいえそうな状況だ。
「まつげカール器をライターで温めると、火災報知機が鳴ります」。東京・渋谷の商業施設内のトイレで多く目にする注意書きだ。化粧直しでまつげをカールさせようと、金属製の化粧小物をライターで温める人が少なくないのだ。
多くの商業施設はトイレに煙や熱に反応する炎監視センサーを設置。個室内の喫煙を見つけるための装置だ。しかし最近、このまつげカール器のようにおしゃれ目的の動作に伴うセンサー反応が後を絶たない。
あるファッションビルの関係者は「買った服に着替えるため、商品についたタグを切ろうとライターを使う例もある」と打ち明ける。火災につながりかねない危険な行為なのに、その自覚がないという。
さらにここにきて深刻な問題になっているのが、使用済みの注射針をトイレに捨てて立ち去る例だ。
トイレの壁や個室ドアに貼られた、注射針のイラストや写真入りの表示。インスリン用注射針などの廃棄、処理方法を注意喚起するポスターだ。商業施設などでの掲示が増えている。
東京・日本橋の商業施設「コレド室町2」ではトイレのゴミ箱の上に、イラストと画像入りの注意喚起の貼り紙を掲示。京王百貨店新宿店(東京・新宿)は昨年7月、トイレ個室のドア裏に、注射針を持ち帰るようにとの表示を貼った。「それでも廃棄は続いている」と担当者はこぼす。
在宅医療の普及で、病院以外の場所で自己注射する人が増えた。外出中にトイレの個室で打った後、使い捨ての針をトイレに廃棄する例が問題となっている。
使用済みの注射針には、利用者の血液が残っている可能性がある。誤って針に触れると、B型肝炎やC型肝炎、エイズウイルス(HIV)など血液由来の感染症にかかるリスクがある。
ビルの清掃や設備管理の企業が加盟する全国ビルメンテナンス協会(東京・荒川)が2014年に実態調査をしたところ「個室のペーパーホルダーに針が置かれていた」「針がむき出しでゴミ箱に捨てられていた」といった事例が寄せられた。35歳の女性清掃員の手に注射針が刺さり、肝炎や梅毒、HIVの感染を調べる血液検査を計4回実施した、との例も挙がった。
業界内では研修等を通じて注意喚起を進めているが「商業施設を除くと、ビルオーナーの協力が得られにくく、周知が進まない」(事業開発部の芦野太一さん)という。海外では公共の注射針回収ボックスの設置が進むが、日本では普及していないことも背景にあるという。
公共トイレでモラル意識に乏しい行為が目立つのはなぜか。関係者の多くが指摘するのは、トイレ空間の清潔感や快適さが向上した結果、自宅の居室と同様の感覚で過ごす人が増えていることによる影響だ。
商業ビル向けトイレを企画・提案するLIXILの石原雄太さんは「トイレでこっそり泣いたり一休みしたりと、公共のトイレは利用者にとって用を足す以外の場でもある」と語る。
ただ、公共トイレを私的な行為の場と見なす感覚が行き過ぎた結果、順番待ちやゴミの持ち帰り、防災面に配慮した化粧行為の自粛などの公共のルールを守るより、自分の都合や利便性を優先する傾向が浮き彫りになっている。「日本のトイレは素晴らしい」。世界からの評判は、このままでは設備などのハード面だけにとどまってしまうかもしれない。(南優子)
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