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「ぬれ手で粟(あわ)」の不動産開発に怖さを感じ、立ち食いそばを始めた丹道夫氏。友人と別れてダイタンフードを設立し、一大立ち食いそばチェーンへと発展していく礎を築いたのもこの頃だ。じつは、人生最大のピンチもこの直後に訪れたという。病に倒れ、病床で資金繰りをしながら考えたことが「名代 富士そば」の原点。店舗視察の際、従業員には必ず「厳選したお饅頭(まんじゅう)を持って行く」という。
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そうね、いつが一番ピンチだったかと言えば、「そば清」から「富士そば」へと切り替えたあたりかもしれない。じつは、独立する時に6000万円の借金も一緒に引き受けたんです。それを返すために建売住宅に手を出したものだから、多額の借り入れで資金ショートを起こしそうになった。
妻のおなかは大きいし、年老いた母の面倒もみなくちゃいけないし、で本当に大変でした。独立したてで、焦っていたこともあったんでしょうね。袂(たもと)を分かった友人に負けないように、僕も頑張らなくちゃと思ったんだね。それで無理したものだから、病気になっちゃったんです。B型肝炎と診断され、トイレに行く歩数さえチェックしないといけないくらい、絶対安静を言い渡されました。
資金繰りに苦しんでいましたから、入院していても眠れない。ベッドの上で電卓をたたくくらい、悩んでいた。それなのに、同じ病気で入院しているサラリーマンは横で高いびきをかいて寝ているわけ。
妻に言わせると、彼女はそのころ、「この人に付いていって本当に大丈夫かしら」と思っていたそうです。そりゃそうだよね。私はその時に、絶対に無理はしちゃいかん、と肝に銘じました。二度とこんな苦労はしたくない、と。
そのころ、立ち食いそば以外にもいくつか飲食店を経営していましたが、入院したのをきっかけに、それらはすべて手放しました。これからは立ち食いそば一本に絞ろう、と思ったから。だって、その方が堅実だもの。
みんなに反対されましたよ。銀行さんとか、いろんな人がいろんな話を持ってきました。「土地を買わないか」「ゴルフ会員権を買わないか」と。だけど僕はもう、これで十分だと思った。ここからは脇目も振らず、立ち食いそばだけでいこうと決めた。
■出店目標は決めない。ペースはゆっくりでいい
その時に考えたのね。根こそぎもうけようとするから商売がうまくいかないんだ、と。10円もうかるんだったら、僕は7円もらえばいい。その代わり、余裕を持たなくちゃいけない。残り3円は誰か相手にもうけさせる。そうしたら、相手も自分も次のステップを踏めるでしょ。僕はつまり、そういう考え方なの。
飲食チェーンの多くは「今年の出店目標は何店」と決めて、それをいっぺんに達成しようとするでしょう。でも、僕はしない。出店のペースはゆっくりでいい。
というのも、立ち食いそばは予定が立たないんです。いい物件はめったに出ないから。辺鄙(へんぴ)なところにお店を出しても、誰も振り向いてくれません。ステーキだったら来るかもしれないよ。だけど、立ち食いそばですから。「あったらいいな」という場所になかったら、誰も食べに来ませんよ。
基本は駅から近くて、人通りの多いところ。出店に関しては、今でも必ず僕が最終判断しています。案件が上がってきたら、必ず見に行く。ダメなところはすぐにわかります。何秒とかからずに「ここはダメ」と判断するから、みんな「瞬殺だ」って笑います。
どうしてわかるのかと言えば、これはもう経験です。小さい店舗でも、店を1つ出したら5000万円は吹き飛ぶ。5000万円もうけようと思ったら、大変ですよ。下手をすると、店が潰れちゃう。だからいいところにしか出せないし、ここの判断は非常にむつかしいの。
これまで赤字で撤退した店はひとつもありません。飲食店で前年比を上回る売り上げをあげるってことは、店も清潔に、サービスも良くして、味も良くして、という努力のたまものなんです。戦争がない限り、景気がいいだの、悪いだの言いながらも、文化は進んでいく。文化が進めば、人はよりおいしいものを求めます。人間の舌も成長するからね。だから、安くておいしいものを出し続ければ、この商売は続くと思う。
■雨が降ったら傘になるのが経営だ
だまされたことですか? そりゃあ、たくさんあります。過去には、売上金を持ち逃げされたことも何度もありました。だから、うちは券売機を置いているの。
お金には魔力があります。人間は弱いから、目の前にお金があったら欲しくなる。そういう欲望を起こさせないようにしなくちゃいけない。それが経営でしょ?
人間である限り欲はつきものですから、僕は絶対にそれを見逃さない。安月給で働かそうとするから、みんな裏で悪いことをするんです。いくら僕がすご腕経営者だって、それだけで人が喜んで働いてくれるなんてことはないですよ。
いくら売ってもお給料が同じだったら、みんな売り上げに無関心になります。うちはグループ企業をすべて分社化して、競わせているんです。売り上げが落ちてもお給料が下がることはないですけれど、伸びたらその分、事務員にもプラスアルファのお金を出す。アルバイトにもボーナスを支給しますし、有給休暇も取らせる。それはもう、ずっと前からそうしています。
みんなやる気が出るように。雨が降ったら傘になるというのが、経営だと思います。だから、僕はいまだに店でそばを作ったことはない。
■従業員には毎年、厳選したお饅頭を持っていく
今でも年に何度か、味見がてら全店舗を回っています。いっぺんには回れないから、1、2カ月かけて回るんですけれども。
その時に、従業員さんへお饅頭をお土産に持って行くの。京都に本社がある「仙太郎」さんというところのお饅頭に決めているんです。毎回、種類は変えるけど、お店は一緒です。いろいろ研究をしましたけれど、そこが一番おいしいし、工夫しているから。
その辺で適当に買ったものを持っては行きません。僕は自分が一番おいしいと思うものを、お土産に持って行くようにしている。おいしいお饅頭を持って行くと、みなさん喜びます。
以前はお饅頭を自分で持って歩いていたんです。そしたらある日、腰が痛くなっちゃった。それからは係長に持ってもらっています。店舗数が多くなったからちょっと大変で、年に3回だったのを2回に減らそうかなとは思っているんですけれども、もう何十年も続けている習慣です。
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190401_24