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転んで膝をすりむいたり、皮膚にできものができると、その部分が赤くなったり、熱をもったりする。これが「炎症」という現象である。炎症自体は異物から身体を守る免疫機能の一部であり、正常な反応だ。そして一過性であるのが普通である。ところが、これが慢性化して「慢性炎症」になると、非常にやっかいなことになるという。
本書『免疫と「病」の科学』は、炎症と病気の意外な関係を、最新の免疫学の知見をもとに解き明かす一冊だ。
■動脈硬化、アトピー性皮膚炎、ぜんそくなどに関与
すぐに治まるはずの炎症が、治まらないという“例外的な”炎症が慢性炎症だ。例えば動脈硬化、アトピー性皮膚炎、ぜんそくなどは、それぞれ動脈の壁、皮膚、気道の壁で、慢性炎症が続いている状態だ。そして、慢性炎症は全身に広がり、炎症が起きた組織の機能を低下させる。しかも、赤くならない、あるいは熱を持たない場合もあり、気づかぬうちに症状が進むことも多い。そのため「サイレント・キラー」などと呼ばれている。
慢性炎症の正体はいまだによくわかっておらず、あいまいで捉えづらい。慢性化の要因としては、炎症を促進させる体内物質の異変等で「炎症のアクセルが踏みっぱなしになっている」こと、あるいは制御性T細胞など、炎症を抑える「ブレーキ役」が効きにくくなっていることが考えられる。
慢性炎症は様々な病気の発症に関与している。その範囲は、がん、肥満、糖尿病、脂質異常症、心筋梗塞、肝炎・肝硬変、関節リウマチ、認知症、うつ病にまで及ぶ。老化が進行し、寿命が縮まるという研究結果もあるという。まさに慢性炎症は「万病のもと」なのである。
■ストレスがかかると免疫機能が抑制される
現代の医学では、慢性炎症そのものを治癒する特効薬は存在しない。そのため、しっかりと予防をすることが大事になってくる。
炎症の慢性化を防ぐために必要なのは、日々の健康習慣の改善である。具体的に本書が提案するのは、「避けられるストレスを避ける」こと。ストレスがかかったときに分泌される副腎皮質ホルモンは、免疫機能を抑制し、炎症の慢性化に結びつきやすいからだ。
次に「禁煙する」「節酒する」「食生活を見直す」「身体を動かす」「適正体重を維持する」という、5つの健康習慣を実践することが挙げられる。具体的には、節酒なら毎日飲む人でビール大瓶1本程度、運動なら年齢にもよるが「歩行と同じくらいの身体活動を毎日60分」プラス「息がはずみ汗をかく程度の運動を毎週60分」程度が適当とされている。
いずれにせよ大事なのは、何事も「ほどほど」であること。「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如(ごと)し」。それこそが慢性炎症の予防法であり、すなわち万病に効く究極の健康法なのだ。
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190401
医師が監修したインターネット上の医療事典を公開する動きが広がりつつある。医師と患者の間の知識の差を埋め、患者がネット上にあふれる不確かな情報に惑わされないようにするためだ。何人もの医師の目を通すことで、中立性や正確性の高さを担保する。何が本当に信じられる情報なのか。患者自身のリテラシーも求められる。
メドレー(東京・港)の作るオンライン医療事典「MEDLEY」は10人弱の医師を中心に作成。2016年から執筆や監修を担当する園田唯医師(38)はもともと呼吸器内科の臨床医。「患者と接するなかで医師と患者の持つ知識の差が大きく、うまくコミュニケーションがとれていないことが気になっていた」と話す。今も週2日は臨床の現場に出るという。
編集する上で心を砕くのは中立性と信頼性だ。
医療情報は医師によって採用する学説に差があり、結論や治療方針が異なることもある。メドレーでは専門外の項目は外部の臨床医数十人に執筆を依頼するほか、700人ほどが登録する協力医師が各項目のチェックにあたる。1カ月当たり、50項目以上が修正され続けているという。
結論が分かれる部分は両論を併記し、誤解を招く部分ははっきりと書くことにした。例えばB型肝炎の項目では「ジュースの回し飲みや共同入浴程度ではうつることはまずありません」などと記載されている。
現在、閲覧できる病名は1500ほどで、それぞれ1千~3万字程度。病名だけでなく、症状や薬名、病院名でも検索できる。風邪や糖尿病、がんなどのほか、「いじめ」などの項目もつくった。
園田医師は「患者の目線で分かりやすい言葉を心がけている。多くの医師の目線で修正していき、医師が作るウィキペディアを目指す」と話す。
米製薬大手メルクの日本法人MSD(東京・千代田)はインターネット上で無料で閲覧できる医療事典「MSDマニュアル」を公開している。
米国版の翻訳だが、米国では医師による8段階の審査を経るほか、翻訳の際にも国内の医療の専門家数十人がチェックにあたる。MSDマニュアルの担当者、大村雅之氏は「安心して使ってもらえるはず」と胸を張る。
インターネット上の医療情報の信ぴょう性が問題になったのは医療情報サイト「WELQ(ウェルク)」。画像の盗用や委託ライターによる安易な記事作成などが16年11月に表面化し、運営していたDeNAは計10サイトを閉鎖することになった。
その後の第三者委員会による報告書では、▽掲載されていた記事の内容に医師のチェックがなかった▽他のウェブサイトからの不正確な引用があった▽実際に健康被害があったとのクレームが相次いでいた――ことなどが指摘されている。
ヘルスリテラシーに詳しい聖路加国際大学(東京・中央)の中山和弘教授(看護情報学)は「本来ならば正確な医療情報は国など公の機関がまとめて出すべきだ」と指摘する。米国では最新の研究成果をまとめた国立の医学図書館があるほか、公の機関が市民向けにインターネットで医療情報を公開しているウェブサイトが多くある。
日本でも国立がん研究センターや医師がつくる学会などが同様の取り組みをしているものの、中山教授は「様々な病気を広く取り上げたウェブサイトは少なく、患者にとっては内容が難しいのが現状」という。
中山教授は、患者などが医療情報に接する際に注意してほしいのは(1)いつ書かれたのか(2)何のために書かれたのか(3)書いたのは誰か(4)元ネタは何か(5)違う情報と比べたか――の5つ。これらの最初の一文字をつないで「いなかもち」と覚えてほしいと求めている。
中山教授は「目の前にいる医師よりも週刊誌の記事を信じる患者もいる。自分の健康を守るため、患者自身も情報の確かさを自分で判断する力をつける必要がある」とアドバイスしている。
◇ ◇ ◇
■健康・医療情報 「ネットで入手」78% 「信頼できる」は26%
米製薬大手メルクの日本法人MSDが17年に3千人を対象にした調査によると、健康・医療情報を「インターネットの検索サイトで入手する」と答えた人が約78%に上った。一方でそうした情報を「信頼できる」と回答したのは約26%にとどまった。
関係者が口をそろえるのが、検索サイトで上位に選ばれるようにする「SEO対策」の難しさだ。信ぴょう性が問題になったWELQも導入し、正確性よりもアクセス数を稼ぐことを優先したとされる。問題発覚後もインターネット上から根拠や出典などが不明の健康・医療情報が多い現状は変わっていない。
ヤフーは国立がん研究センターと連携して18年1~2月にスマートフォンのほかパソコンでもヤフー検索で同センターが提供する情報の掲載枠を順次設けた。各がんの名前を検索すると、病気の症状、原因などを検索結果の上部に表示する。ヤフーは「検索で適切ながんの情報を届け、正しい理解、適切な治療につなげたい」としている。
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190401_1
伴侶と死別した単身者を指す「没イチ」の高齢男性によるファッションショーが東京都内で開かれた。喪失感と孤独にさいなまれ、服装もおざなりになってしまいがちな彼らに、明るさを取り戻してもらおうと企画された。専門家のアドバイスで華麗に変身した6人からは「10歳は若返った」「まるでチョイ悪ジジイの気分」と高揚した感想が漏れた。見た目の印象だけでなく、本人の気持ちも大きく変えるショーからは、超高齢社会を楽しく生き抜くヒントも見えてきた。
12月9日夕、東京・三田にある弘法寺の地下にロックのリズムが響いた。普段は葬儀に使われる法要室の中央に真っ赤な舞台がしつらえられ、70の客席がうまった会場に熱気がみなぎった。原色のスポットライトが点滅し、司会者が「没イチ メンズコレクション」のスタートを告げた。
音楽に乗って次々と登場する男性6人の平均年齢は68歳。第1部ではコーディネーターに選んでもらった最新ファッションに身を包み、亡き伴侶との思い出の曲に合わせて舞台へ。軽快なステップで舞台を2度、3度と往復し、観客にあいさつ。第2部では全員が、派手な色使いのイタリアンブランド「ベルサーチ」を着て登場。プリンスやマイケル・ジャクソンの曲に合わせて踊った。緊張のためか右手と右足が同時に前にでるちぐはぐは動きもあったが、それはご愛嬌(あいきょう)。軽快な身のこなしは年齢を感じさせなかった。
ショーを主催したのはシニア生活文化研究所(東京・港)の小谷みどり所長だ。長らく第一生命経済研究所に在籍し、高齢者のライフスタイルや死生観を研究してきた。2008年からは、50歳以上を対象に学び直しと再チャレンジをサポートする立教セカンドステージ大学(RSS)でも教えている。このRSS受講生と飲み会などで交流する中で、配偶者と死別した「没イチ」が、同じ悲しみを分かち合える仲間と交流できる場がないことに気づいたという。結婚歴がなかったり、離婚して「バツイチ」となったりしている高齢者とは違う孤独感を抱えている。受講生の中にも少なくなかったそうした男女が話題を共有する場として「没イチ会」を立ち上げた。実は小谷さん自身も7年半前に夫を亡くしたひとりだ。
■「亡くなった奥さんの分まで」
ファッションショーのアイデアは、小谷さんが没イチ会の男性メンバーから「イメージチェンジするにはどうしたらいいでしょう」と相談を受けたのが始まりだ。妻に先立たれた男性には「立ち直れずどんどんみすぼらしくなっていく人が多い」(小谷さん)が、彼らは決してそれを望んでいるわけではない。このままではいけないと思いながら、再起のきっかけもないまま落ち込み続けているケースがほとんどだ。明るく「変身」すれば、気持ちも上向くはず。小谷さんは「亡くなった奥さんの分まで、人生を2倍楽しんで」との思いを今回のファッションショーに込めた。
ファッションモデルとなった6人は「没イチ会」メンバー。それぞれのプロフィールとこの日の舞台姿を見てみよう。
▼没イチ会のまとめ役でもある池内章さん(64)は「没歴8年」。大手通信会社在職中に派遣されたタイで日本語教師をしていた奥さんに出会い、帰国後に結婚。夫婦でよくタイに旅行したが、2010年に旅行先で奥さんが急性肝炎を発症。わずか1カ月で亡くなった。「55歳で妻に先立たれ、思い描いていた定年後の夢が吹き飛んでしまった」。中島みゆきの「時代」にあわせ、迷彩模様のジャケットに細身のパンツ姿で軽やかに現れ、第2部ではマイケル・ジャクソン風の衣装をまとった。
▼最年少の庄司信明さん(59)は、大手新聞社で運動記者として活躍していた10年4月、看病のかいなく妻をがんで亡くし「もぬけの殻に」。夏の甲子園の取材もやる気が起きず、東京に戻った直後の9月に辞表を出した。今はNPO活動、大学での講師と忙しいが、ファッションには無頓着だった。“若手”だけに、舞台でのアクションも派手。病室で妻とよく聞いた松田聖子の曲に合わせてステップを踏み、第2部では真っ白のシャツにベルサーチのベストをはおり、汗だくになって跳びはねた。「チョイ悪オヤジになった気分だね」
▼最高齢の田中嶋忠雄さん(79)は、56歳で中小企業を退職すると、日本画や古文書解読、オペラ鑑賞など趣味の世界にひたり、RSSにも通うようになった。7年前に妻を見送った後は、さみしさをまぎらすように家庭菜園を花で一杯の庭園に作り替え、今は供養のためにとバラの栽培に没頭する日々だ。夫婦ともオペラ鑑賞が好きだったので、登場の曲には「フィガロの結婚」を選んだ。手にした白いバラは、その日の朝つんできた自信作。そのバラを客席に差し出す余裕を見せた。
▼同じく最高齢の三橋健一さん(79)は、大手自動車メーカーで新車開発一筋に30年。モーレツサラリーマンで、家事も育児も妻に任せっきりだった。8年間の介護の末にみとったが、家事は大の苦手。「シャツやズボン、下着などは妻が買ってくれものを今も大切に着回している。自分で買ったことがないのでMなのかLなのか、サイズは分からない」。その三橋さんが選んだ曲は結婚式で聞いた思い出の「スタンドバイミー」。指をはじいてリズムをとり、2部ではジーンズに真っ赤なベルサーチを合わせた。
▼佐藤勇一さん(68)は1級建築士。建築事務所の代表として忙しく働いてきた。妻とは9年前に死別したが、その10年前にがんが発覚してから闘病生活を送っていたので「覚悟はできていた」。今も建築事務所に籍を置いているせいか、身だしなみはきちっとしている。1部では黒のコートとスカーフでダンディーに決め、2部は帽子を斜めにかぶり、少しやんちゃな感じに。
2人の孫から花束を受け取ると、こぼれんばかりの笑顔をみせた。
▼岡庭正行さん(63)は15年2月に妻を心臓まひで亡くしたが、その1カ月後に中国への赴任を命じられた。「死亡後の手続きや赴任準備で忙しく、悲しんだり落ち込んだりしている暇はなかった」。1年後の帰国とともに退職した。もともと工学部出身のエンジニアで、普段は「だぶだぶのズボンをはいていることが多い」。
その岡庭さんは、白の細身のジーンズにロングコートで舞台に登場した。家族連れで会場に来ていた長女の侑香さんは「まるで別人。笑っちゃいました」と口にしながらも、父親の別の魅力を発見したようだ。
■互いに褒め合うことが大事
2017年の平均寿命は女性が87.26歳、男性が81.09歳と過去最高を更新。団塊世代の高齢化とあいまって、没イチを含めたお年寄りの単身世帯は増加傾向にある。地味になりがちな没イチ男性の大胆な変身を演出した専門家の意見も聞いた。
「ファッションには人間を変える力がある」と話したのは衣装を提供したブルネロインターナショナル(東京・中央)の渡辺義明社長。近場の量販店や通販だけでなく「ひやかしでもいいから、まずは専門店に出向いて実際に試着してほしい」。自分にぴったりのサイズもわかるし、専門家の見方も聞ける。「少し派手めのファッションで思い切って気分を変えること。そして、恥ずかしがらずにお互いに褒め合うことが大切」という。
実際にショーの準備段階で6人の行動に変化があらわれた。衣装合わせの専門店でレンガ色のパンツとジャケットを気に入り、その場で購入した田中嶋さんは「これまでなら、絶対買おうとは思わなかった」。池内さんも「外出する際、何を着ようか考えるようになったし、ショーの準備を始めてからはアパレル専門店をのぞいてみようかなと思うようになった」と語る。
ショーのファッションコーディネーターを務めたTOKIMEKU JAPAN(東京・港)の塩崎良子社長は「最初は帽子やスカーフなど、アクセントをつける小物でスタートしてみては」と助言する。ファッションを自分で選ぶ楽しさがわかってくれば、「次はデビュー。同窓会でもいいし、知人との食事会でもいい。変身した姿で積極的に出かけてみよう。人の目を意識することで、自分を変えられる」という。
長年がん患者向けのメークを手掛け、今回もメークで協力した山崎多賀子さんは「高齢の男性はどうしても肌や髪が乾燥しがちなので、保湿クリームなどを使いたい」。市販の男性化粧品でシミやくすみをかくすこともできるし「加齢で薄くなりがちな眉を描き直せば表情が引き締まり、元気が出る」と話した。ショーでは全員が軽く化粧したが、庄司さんは「初経験だが、我ながら表情が引き締まった」と、うっすらと口紅が残った顔でニヤリ。
歩く姿勢も大事だという。プロのモデル、浜田玲さんは「足元ばかり見ず、笑顔でまっすぐ前を見て」と、かっこよく歩くコツを伝授。「ファッションを変えれば外出が楽しくなり、自然にウオーキングもうまくなる」とも指摘した。
専門家は若作りを促しているのではない。塩崎さんがあえて派手なベルサーチを提案したのは「逆に年を重ねた人間の深みや魅力がないと、着こなせないから」。若い世代ではまねできない、年相応の着こなしがある。
ショーが終わった後の控室。80歳を目前にした三橋さんが、今後の人生のささやかな生きがいを見つけたようにつぶやいた。「ベルサーチが似合うにはもう少し年齢を重ねないとな。バリッと着こなせるよう長生きしたいね」
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190401_2
医療分野の満たされないニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)についての治療分野の革新に焦点を当てていく本シリーズ。今回は、スマートフォン(スマホ)のアプリが、医薬品や医療機器と同様に、医療効果を持つ「薬」となって処方される「治療アプリ」を取り上げる。既に臨床試験が実施中で、2019年にも承認されるとみられるのが、治療アプリの「CureApp禁煙」。開発を進めてきたキュア・アップ代表取締役の佐竹晃太医師に話を聞いた(聞き手・企画:藤井省吾=日経BP総研 メディカル・ヘルスラボ所長)。
◇ ◇ ◇
2018年9月4日付の日本経済新聞朝刊1面の安倍晋三首相の発言を紹介した記事で、「生涯現役」という言葉が見出しになった。それを実現するには、人々がいつまでも健康で働ける必要がある。ヘルスケア分野で医薬品や医療機器の革新には目覚ましいものがあるが、それだけでは足りないものがある。それが食事改善、運動習慣、禁煙など患者自身が行う生活改善だ。医師による生活指導はあるが、通院と通院の間には医療機関と患者の接点がなく、患者のモチベーションを維持することが難しかったといえる。
そこでキュア・アップ代表取締役の佐竹晃太医師が挑戦しているのは、患者にスマホのアプリを処方することで、通院と通院の間ずっと患者の生活改善をサポート。病気の改善につなげるという新たな治療法の開発だ。
――まず、佐竹さんが、こうした「治療アプリ」の可能性に気づいたきっかけについて教えてください。
佐竹 私が「治療アプリ」という存在に出合ったのは、米国に留学したときでした。2013年、医療ITをアカデミックに研究する「医療インフォマティクス」を学ぶために、ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院に留学しました。そこで目を通した1本の論文によって、医療系テクノロジー企業「WellDoc」が開発したスマホアプリ「BlueStar」の存在を知ったのです。
■米国の治療アプリ「BlueStar」は新薬に匹敵する効果も
――どのようなアプリだったのですか。
佐竹 一言でいえば、糖尿病患者の行動変容を促すアプリです。患者は、日々の血糖値、食事の量、体重、運動量などのデータをスマホに入力します。データはクラウドに保存され、ソフトウエアが患者の状態を診断。患者の状態に合った生活改善のガイダンスをスマホに送ります。患者にとっては、今何をすべきかが明確に分かり、続けると食事・運動習慣など行動変容が起こるのです。
論文に掲載されていた臨床成績も驚くべきものでした。糖尿病の重症度を表す検査データの一つにヘモグロビンA1c値があります。「BlueStar」を使った人と、使わなかった人とを比べると1.2も差がありました。内科医が見れば糖尿病の新薬と同じぐらいの効果が出ていることが分かります。一介の医師である私にとって、病気の治療法といえば「薬」か「医療機器」しか頭にありませんでしたが、そこにスマホのアプリという第3の治療が登場したのです。
――この第3の治療は、米国ではヘルスケアビジネスの一つとして成り立っているのでしょうか。
佐竹 「BlueStar」は、FDA(米国食品医薬品局)では医療機器のなかの「治療アプリ」として承認を得ています。保険会社が保険適用を認めており、ビジネスとしてはまずまずの立ち上がりを見せています。そして今、米国では糖尿病以外にもいくつかの医療用ソフトウエア事業が進められています。今後、医療の一分野として大きく成長すると期待しています。
――「治療アプリ」は患者にとって心強い存在になりますが、入力データやアプリの評価項目を医師が常にチェックすることで、さまざまな慢性疾患の治療経過を「見える化」していくことにもつながりそうですね。
佐竹 医師にとって診察中の患者からは多くの情報が得られますが、通院と通院の間の期間は、患者がどういう生活をしているか、ブラックボックス状態でした。「治療アプリ」で得られる情報で、それが見える化していく。生活改善指導などより踏み込んだことが行えると思います。
■医学とIT、プログラムにも強い医師とタッグを組み開発
――佐竹さんは、米国から帰国後、国内で「治療アプリ」を実現するため、2014年に医療系テクノロジー・ベンチャー企業のキュア・アップを設立されました。現在は、ニコチン依存症治療アプリ「CureApp禁煙」の治験を実施中。NASH(非アルコール性脂肪肝炎)治療アプリ「NASH App」の臨床研究にも取り組んでいらっしゃいますが、開発は大変ではないですか。
佐竹 私にとっては初めてのことばかりでした。しかし、共同創業者の鈴木普は医師でもありながらバイオインフォマティクスの専門家でプログラマーでもありました。鈴木を筆頭にいいメンバーが集まり、アカデミアからみても優れたソフトウエアを開発することができました。ただ、医学とIT、2つのスペシャリティを密に結びつける環境を作り出すのは、やはり難しかったですね。
――2019年にも保険適用が期待されているニコチン依存症治療アプリ「CureApp禁煙」は、どのようなものなのですか。
佐竹 まず、一般的な禁煙外来では、患者に3カ月間で5回通院していただき、パッチ薬、経口薬などを処方しながら禁煙を目指します。ここで重要なのは、ニコチン依存症の依存には2通りがあるということです。一つは「身体的依存」で、タバコをやめると頭痛、イライラ、吸いたくてたまらない気持ちなど禁断症状が出ます。もう一つは「心理的依存」で、朝起きたときに無意識にタバコに手を出してしまうなど、患者の考え方や生活習慣に起因する依存です。
――そのうち禁煙補助薬で軽減できるのは身体的依存だけですね。
佐竹 その通りです。禁煙治療の多くが失敗しているのは、心理的依存に対するアプローチが弱かったからだといえます。そこで、患者の考え方や生活習慣により深くアプローチするのが「治療アプリ」なのです。患者は、吸ってしまった本数、その日の気分、処方された禁煙プログラムの進捗状況などをスマホで入力。データはクラウドに上げられ、適切なアドバイスが患者に届きます。
2015年に慶應義塾大学病院で行った臨床試験では、治療アプリを使った群では、使わなかった群と比較して高い治療効果が得られました。2017年の12月からは薬事承認をとるための治験を始めました。治療アプリとしては日本で最初で、2018年中には結果がまとまります。2019年には、公的医療保険が認められることを目指しています。
――「CureApp禁煙」と共に、一般的な健康プログラムとしてのアプリ開発も行っているそうですね。
佐竹 はい。こうした保険適用されるような本格的な「治療アプリ」の開発が私たちの最も重要な仕事ですが、臨床研究するなかで、いいエビデンスが出ているものに関しては病院だけでなく、健康保険組合、企業の人事部、保険会社などを対象に非医療としてのモバイルヘルスプログラムの開発を行っています。
例えば、法人向けの健康増進プログラム「ascure(アスキュア)卒煙プログラム」の提供も、2017年4月より開始しています。同様に、ニュージーランド・オークランド大学が開発したうつ病に対する認知行動療法を取り入れたアプリとオンラインカウンセリングを組み合わせたメンタルヘルスプログラムの提供も行っています。
■非アルコール性脂肪肝炎の治療アプリにも挑戦中
――今、医療とICTが急接近しています。その一つが、パソコンやスマホなどを通して、医師の診察を受ける「オンライン診療」です。2015年に解禁されたこの新しい診療に2018年の4月から、健康保険が適用されました。「治療アプリ」とオンライン診療との違いは何でしょうか。
佐竹 オンライン診療は、医師による診療をオンラインで行うものですが、「治療アプリ」は診療と診療の間の医療を担うものといえます。医療従事者の最大の目標は、患者の病気が良くなることです。「治療アプリ」は、ICTによって患者が良くなることを実証したものだといえます。
――治療効果について明確なエビデンスがあることが「治療アプリ」の第一の特徴といえますね。米国では、糖尿病の「治療アプリ」が登場しているということですが、今後、どのような疾患に広がっていくのでしょうか。
佐竹 私たちが、ニコチン依存症の次に進めているのはNASH(非アルコール性脂肪肝炎)の「治療アプリ」です。NASHは、放っておくと将来、肝硬変になる重要な病気であるにもかかわらず、有効な治療法・対策法がない。アンメット・メディカル・ニーズのある疾病です。NASHの「治療アプリ」開発のきっかけは、東京大学消化器内科から「こうした手法なら患者の役に立つのではないか」と提案されたことでした。
――「NASH App」ですね。NASHの治療アプリの場合、通院と通院の間に患者に対してどのようなアプローチをするのですか。
佐竹 体脂肪の減少などの生活改善のプログラムが肝臓に特化した形で入っています。といっても一般的なダイエットアプリとは異なります。ダイエットアプリは、プログラムが終了するとリバウンドする傾向がありますが、「NASH App」では、認知行動療法を取り入れることでリバウンドが起きないようにしています。
認知行動療法の内容は、良い生活習慣をしているほうが自分として自然であるというように、考え方の変容を促すものです。例えば、治療を続けていると、酒を飲んだ後でラーメンを食べたとき、それに対して強い違和感を覚えるようになります。考え方が変わるのでリバウンドが起きないのです。
■今は医療の変革点、アプリ開発で費用対効果の高い治療に
――患者もアプリを使って、自分自身も参加して医療をより良いものにしていくという考え方は、いろいろな病気の治療に役立ちそうですね。日本でも、糖尿病の治療アプリは考えていないのですか。
佐竹 もちろん視野に入れています。現在、開発のパイプラインとしては、既に自治医科大学と共同研究を行っている高血圧のほか、今後は糖尿病、脂質異常症、メンタルヘルスなどに取り組んでいきたいと思っています。
――高血圧もアプリで、いろいろな補助ができそうですね。
佐竹 高血圧の治療は、薬を飲むのが第一になっていますが、減塩など薬以外のアプローチもたくさんある。薬だけに頼る場合は、一生飲み続けなければならないですが、治療アプリによる行動変容によって薬をやめたり減薬できるようになると期待できます。
――佐竹さんにとって治療アプリを作るイメージは、医療機器を作ろうというイメージなのか、または医薬品を作るイメージなのか、どちらなのでしょうか。
佐竹 医薬品に近いイメージですね。医療機器は医師など医療従事者が扱うものですが、治療アプリは医師が処方した後は、患者が自分で使っていくものですから。
――これから先、どのように医療は変わっていくのか。5年先、10年先をどのように考えていらっしゃいますか。
佐竹 今までの医療は、薬による治療と各種医療器具など解剖学的デバイスによる治療が主でしたが、そこに、アプリによって患者の行動変容をもたらす治療法が登場しました。これまで2本柱だったところが3本柱になることが最も大きな変革といえるでしょう。ニコチン依存症では「薬とアプリで治しましょう」、生活習慣病などでは「薬ではなくアプリで治しましょう」という時代がやってくる。こういう医療が5年後に広まっていればいいですね。
――医療費の削減にも貢献できそうですね。
佐竹 「治療アプリ」は医療費適正化に寄与するポテンシャルを持っているほか、費用対効果の高い医療を行うことで、多くの人がいつまでも健康で働けるようになります。その結果、経済活動が高まり医療費の負担をサポートできる。サスティナブル(持続可能)な医療を実現できるようになると考えています。
http://www.henshikou.com/blog/blog_20190401_3
世界で2億人以上が慢性的に感染しているB型肝炎。治療しても原因となるウイルスを体内から完全に消すことができないため、患者はずっと薬を飲み続けることになる。副作用が少ない薬が求められるなか、2017年に国内で登場した新薬が「ベムリディ」だ。飲む量が少なくて済み、骨や腎臓への副作用リスクを減らせるとして治療での利用が広がっている。
東京都に住む50歳代の男性はB型肝炎にかかり投薬治療を受けたが、副作用で腎臓の働きが悪くなった。17年に武蔵野赤十字病院(東京都武蔵野市)を受診し、同年に発売されたベムリディに変えたところ腎機能が改善した。現在は投薬を続けながら働いている。
B型肝炎はウイルスに慢性的に感染すると、一部の患者で発症する。1980年代半ばまではほとんどが出生時に母親からうつる母子感染だった。血液を介してうつるため、予防接種などでの注射器の使い回しも感染を広げる原因となった。
80年代半ば以降は治療技術の普及で母子感染は減り、大半が性行為による感染になった。慢性的な感染者は世界で2億人以上で、毎年約90万人が亡くなるとされる。日本にも慢性感染者は130万~150万人いる。
■一生飲み続ける
肝炎が続くと一部の患者は肝臓が硬くなり働きが悪くなる肝硬変になったり、肝臓がんになったりする。B型肝炎ウイルスのDNAは細胞の核の中に入り込む。薬をやめると再びウイルスが増えるため、患者は薬を一生飲み続ける必要がある。
日本では86年、ウイルスが増えるのを阻むインターフェロンと呼ぶたんぱく質を注射する治療法が始まり、00年に飲み薬が登場。耐性ウイルスが生じにくい薬も現れ、治療法が進歩した。だが薬を長く使い続けるため、骨の密度や腎機能が低下する副作用が出ていた。
そんな中、米ギリアド・サイエンシズが昨年発売したベムリディは、副作用を抑えられるのを特徴とする。1日に1回、1錠ずつ飲む。
従来の薬は成分の一部が肝臓に取り込まれる前に血液中で分解してしまうため、多くの成分を薬に詰め込む必要があった。そのため骨や腎臓で副作用が出やすかった。
これに対し、ベムリディ1錠に含まれる有効成分量は25ミリグラム。先行薬の1割以下にすぎない。
新薬は肝臓へ効率よく入るように構造を工夫した。「血液中で分解されにくいため成分の量を減らせた。副作用を抑えられる」(ギリアド社の星野洋・メディカルアフェアーズディレクター)
同社は国際的な臨床試験(治験)を実施し、2年弱にわたり薬の副作用などを調べた。腎機能の目印になる「推算糸球体ろ過量(eGFR)」の低下を従来の4分の1に、腰骨の密度低下も3分の1以下に抑えられた。
副作用が少ない薬の登場は患者にとって福音だ。武蔵野赤十字病院の泉並木院長も「当院では過半の患者がこの薬へ切り替えた」と話す。
B型肝炎は自覚症状が少ない。手術時の採血検査で見つかることもあるが、医師が専門外で患者に伝わらない可能性もある。病気が肝硬変まで進むと体に黄疸(おうだん)が出たり、疲れやかゆみを感じたりする。
感染が心配な人は病院で血液検査を受けよう。ウイルス成分のたんぱく質が血液中で見つかれば、感染が分かる。数週間で検査結果が出る。自治体の支援で無料で受けられることも多い。母子感染の防止が進む前に生まれた30歳代以上で検査を受けたことがない人は、特に受診するとよい。
感染が分かったら、すぐに肝臓の専門医を受診しよう。肝臓の細胞が壊れると増える血液中のたんぱく質を採血で調べたり、超音波で肝臓の硬さを調べたりする。最後は針で肝臓の組織を取って肝炎の有無を調べる。肝炎だと分かったら、早期に治療を始めよう。
日常生活では睡眠を十分にとり、栄養バランスがよい食事をとるなど規則正しい生活を心がけるのが大切だ。体内でウイルスが増えるのを薬で防げば、肝硬変や肝がんの発症リスクを減らせる。B型肝炎を治療すると肝臓がんなどの発症率を抑えられる。根気強く治療を続けよう。
◇ ◇ ◇
■残る発がんの恐れ 根治薬の開発急務
B型肝炎ウイルスに感染した人の9割は、ウイルスが増えずに治療の必要がないとされてきた。だがウイルスが体内で増減を繰り返し、肝炎や肝臓がんを発症する人もいる。従来の血液検査だけでは見落とす恐れがある。泉院長は「以前に治療が不要だと医師に言われた感染者も、もう1回検査してほしい」と訴える。
B型肝炎ウイルスは肝臓の細胞のDNAに入り込む。詳しい仕組みは不明だが、このことも肝臓がんの発症につながる。薬でウイルスが増えるのを防いでも、肝臓がんを完全には防げない。泉院長は「B型肝炎の患者は半年に1回、超音波などで肝臓がんの有無を調べてほしい」と話す。初期のがんならラジオ波でがんを焼くなどして治療でき、予後もよい。
「ベムリディ」とは異なる仕組みで効く薬の開発も進む。大阪大学の竹原徹郎教授は「肝臓の中でウイルスの粒子ができるのを防ぐ薬や、ウイルスへの抵抗性を強める薬などの研究が進んでいる」と話す。C型肝炎は米ギリアド・サイエンシズが2015年に日本で発売した「ハーボニー」が特効薬になった。B型肝炎でもさらなる新薬の開発が待たれる。
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